隠し部屋の秘境

豆知識的な小ネタ見つけては投稿していきます

絶対値関数の微分積分

絶対値記号が含まれる式は扱いづらいということで、特に微分積分を行う際なんかは場合分けされがち

しかし、調べてみると直接処理することもできるようなのでまとめました。

結論から言います。

目次

  1. 絶対値の微分 |x|'=x/|x|=|x|/x
  2. 絶対値の2階微分 |x|''=0
  3. 関数の絶対値のn階微分 |f(x)|⁽ⁿ⁾={|f(x)|/f(x)}f⁽ⁿ⁾(x)
  4. 絶対値の積分 ∫|x|dx=1/2{x|x|}

ちなみにxが実数である事を想定しています。

複素数の場合については未検討です。

それでは解説を始めます

1. 微分

\dfrac{d}{dx}|x|=\dfrac{x}{|x|}=\dfrac{|x|}{x}

符号関数とも呼ばれるこれになります。考えてみれば当たり前ですね。証明いきましょう。

証明1

まず次の図を見てください。横軸をx, 縦軸をyとします。

f:id:theEasyPuzzle666:20220803101709p:image

青い実線y=|x|を表しており、その微分係数はそれぞれの領域において赤字で示された通りになります。

ここで|x|×|x|'を考えると、x<0の領域のみ-1倍されて折り返されるためy=xになるというのが黄色い字の式です。

これらを数式で表現します。

0<xの場合

|x|=x, |x|'=1 より

|x|×|x|' = x×1 = x

x<0の場合

|x|=-|x|, |x|=-1 より

|x|×|x|' = (-x)×(-1) = x

x=0の場合

|x| = 0 より

|x|×|x|' = 0×|x|' = 0 = x

以上より

|x|×|x|' = x [完]

同様にx×|x|'=|x|も示せます。

証明2

積の微分を利用する事もできます。

 \color{red}{{f(x)g(x)}'=f'(x)g(x)+f(x)g(x)}

今回、f(x)=g(x)=|x|とします。

すると{|x||x|}' = |x|'×|x| + |x|×|x|' = 2{|x|×|x|'}

一方、{|x||x|}' = (x²)' = 2x

以上より 2{|x|×|x|'} = 2x

∴ |x|×|x|' = x [完]

両辺に|x|/xをかけるとx×|x|'=|x|も得られます。

証明3

定義にしたがった微分と予想の式を比較してみます

0<xの場合

\lim_{h\to 0}\dfrac{|x+h|-|x|}{h}=\lim_{h\to 0}\dfrac{x+h-x}{h}\\\ =lim_{h\to 0}\dfrac{h}{h}\\\ =lim_{h\to 0}1=1

一方、予想の式は

\dfrac{x}{|x|}=\dfrac{x}{x}=1

x<0の場合

\lim_{h\to 0}\dfrac{|x+h|-|x|}{h}=\lim_{h\to 0}\dfrac{-(x+h)-(-x)}{h}\\\ =lim_{h\to 0}\dfrac{-h}{h}\\\ =lim_{h\to 0}-1=-1

一方、予想の式は

\dfrac{x}{|x|}=\dfrac{-x}{x}=-1

x=0の場合

右から極限

\lim_{h\to +0}\dfrac{|x+h|-|x|}{h}=\lim_{h\to +0}\frac{x+h-x}{h}\\\ =lim_{h\to +0}\dfrac{h}{h}\\\ =lim_{h\to +0}1=1

左から極限

\lim_{h\to -0}\dfrac{|x+h|-|x|}{h}=\lim_{h\to -0}\dfrac{-(x+h)-(-x)}{h}\\\ =lim_{h\to -0}\dfrac{-h}{h}\\\ =lim_{h\to -0}-1=-1

よって極限は存在しない。

一方、予想の式は

\dfrac{x}{|x|}=\dfrac{0}{0}

よって定義できない。

以上より全ての実数xについて

\dfrac{d}{dx}|x|=\dfrac{|x|}{x}

が成立する。[完]

x×|x|'=|x|も同様に示せます。

 

以上、3通りの証明を行いました。

厳密性はともかく、結果が最もらしいことは分かっていただけたかと思います。

2. 2階微分

 \dfrac{d^{2}}{dx^{2}}|x|=0\,(x\ne0)

2回微分は0です。x=0では微分は定義できません。

証明

1階微分は上で求めました。

\dfrac{d}{dx}|x|=\dfrac{x}{|x|}=\dfrac{|x|}{x}

2回微分は次のようになります。

\dfrac{d^{2}}{dx^{2}}|x|=\dfrac{d}{dx}\{\dfrac{|x|}{x}\}

ここで、商の微分を用います。

\dfrac{d}{dx}\{\dfrac{|x|}{x}\}=\dfrac{|x|'x-|x|x'}{x^{2}}\\\ =\dfrac{\dfrac{|x|}{x}x-|x|}{x^{2}}\\\ =\dfrac{|x|-|x|}{x^{2}}\\\ =\dfrac{0}{x^{2}}

x≠0のとき、これは0になります。

x=0のとき、0/0不定となります。

以上より、

 \dfrac{d^{2}}{dx^{2}}|x|=0\,(x\ne0)

[完]

まあ、結局は一次関数ですからね、2回微分すればそれは0になりますよ

3. n階微分

 |f(x)|^{(n)}=\dfrac{|f(x)|}{f(x)}f^{(n)}(x)

これも答えを見れば当たり前というか特になんの面白みもない。

証明行きましょうね

導出過程

まずは合成関数の微分をします

|f(x)|'=\dfrac{|f(x)|}{f(x)}f'(x)

これをさらに微分しますと、

|f(x)|''=\{\dfrac{|f(x)|}{f(x)}f'(x)\}'\\\ =\{\dfrac{|f(x)|}{f(x)}\}'f'(x)+\{\dfrac{|f(x)|}{f(x)}\}f''(x)

積の微分をつかいました。

ここで、\{\dfrac{|f(x)|}{f(x)}\}'の部分ですが、

 \dfrac{d^{2}}{dx^{2}}|x|=0\,(x\ne0)のxにf(x)を代入したものとなっています。よってf(x)≠0で0となるので、

\{\dfrac{|f(x)|}{f(x)}\}'f'(x)+\{\dfrac{|f(x)|}{f(x)}\}f''(x)=0+\{\dfrac{|f(x)|}{f(x)}\}f''(x)\,(f(x)\ne0)

となります。

一方f(x)=0のとき、絶対値の微分は定義できないのですが、

\{\dfrac{|f(x)|}{f(x)}\}'

の部分も0/0不定となるので、左辺と右辺がどちらも未定義という事でf(x)=0の場合も成り立つと言えます。

以上より

|f(x)|''=\{\dfrac{|f(x)|}{f(x)}\}f''(x)

となります。

これを繰り返すと次の規則に気づきます。

 |f(x)|^{(n)}=\dfrac{|f(x)|}{f(x)}f^{(n)}(x)

証明

まあ数学的帰納法ですよねー,

n=1の場合は導出過程で示しました。

なんならn=2の場合も示しました。

ここで、ある整数kについて

 |f(x)|^{(k)}=\dfrac{|f(x)|}{f(x)}f^{(k)}(x)

が成り立つと仮定します。

すると

 |f(x)|^{(k+1)}=\{|f(x)|^{(k)}\}'\\\ =\{\dfrac{|f(x)|}{f(x)}f^{(k)}(x)\}'\\\ =\{\dfrac{|f(x)|}{f(x)}\}'f^{(k)}(x)+\{\dfrac{|f(x)|}{f(x)}\}f^{(k+1)}(x)\\\ =\dfrac{|f(x)|}{f(x)}f^{(k+1)}(x)

よりk+1の場合でも成り立つことが分かります。

以上より全ての自然数nについて

 |f(x)|^{(n)}=\dfrac{|f(x)|}{f(x)}f^{(n)}(x)

が成り立ちます。[完]

若干誤魔化しが入っている気がするかもしれませんが、使用上は本当に問題ないです。

4. 積分

\int |x|dx=\dfrac{1}{2}x|x|+C

積分も一応定義できる。しかし積分は結構危険なのでこの程度にしておきます。

なんだかんだで結果は当たり前ですね。分かってくれたと思いますがCは積分定数です。

証明

\dfrac{d}{dx}|x|=\dfrac{|x|}{x}

を次のように変形します。

x\dfrac{d}{dx}|x|=|x|

\int |x|dx=\int x\dfrac{d}{dx}|x|dx+C

部分積分を使います。

\int x\dfrac{d}{dx}|x|dx=x|x|-\int |x|dx+C

2\int x\dfrac{d}{dx}|x|dx=x|x|+C

\int |x|dx=\dfrac{1}{2}x|x|+C

[完]

あっさり証明完了

まとめ

いかがでしたか?

自分は場合分けのいらない絶対値の微分積分は新鮮で素敵だと感じます。

例えば|cosx|'は

sinx (2nπ<x<2nπ+π/2, 2nπ+3π/2<x<2nπ+2π), -sinx (2nπ+π/2<x<2nπ+3π/2)

ではなく、|cosx|tanxと表せるのです。

解くのが楽というのもありますが、解が綺麗なんですね。

ただ、これをテストなどで使っていいかと言われると、全くおすすめできません。ですが先生に尋ねる価値はあるのではないかと思われます。

 

最後に、ここまで読んで頂きありがとうございました!